6/9(水)ニューアルバム「花歌標本」のリリースに向けてオフィシャルインタビューを公開。

今週は前編をお届けいたします。
 

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思い出というものは、誰の中にもある。

忘れられないような強烈な思い出もあるだろう。しかし大概の思い出は、日々の新しい経験やルーティンに紛れ、記憶という名の引き出しの奥にしまわれていく。

その引き出しを開けてくれるのが、GOOD ON THE REELの音楽だ。しかも無暗に片っ端から開け放つような、無粋なことはせず、ソッとちょっとだけ開けてくれる。あのときの些細な思い出は、やっぱり懐かしく、そして当時とは異なる感情の起伏をあなたにもたらしてくれるはずだ。

 思い出が新しい思い出を作る――GOOD ON THE REELは、誰もが気が付かなかったけど、当たり前のことを当たり前のこととして教えてくれる、そんなバンドだ。

 

詞先、曲先の両刀使いバンド

――4年ぶりのフルアルバム『花歌標本』について伺います。制作期間はいつから?

伊丸岡亮太(以下、伊丸岡)全部合わせたら……述べ1年以上?

岡﨑広平(以下、岡﨑)それくらいになるのかな。

千野隆尋(以下、千野)アルバムに向けて、本格的に作り出してからは、2~3ケ月くらい?

伊丸岡 そうだね。曲を練ったりとか考えると1年以上。作詞時間は2か月くらい。

千野 元々ストックがあったから、10年以上前の曲もある。

伊丸岡 ストックが結構たまっていくんですよね。今回使わず、次に使おうってパターンが多い。

――つまりいつもある程度、定期的に曲作りをしてるってことでしょうか?

千野 そうですね。わりといつも“曲、作らなきゃなぁ”って思いながら生活してますね。

――そういう生活の中で曲を作ろうと思うきっかけはある?

千野 特にきっかけとかは、あまり意識したことがなくて。気分がのればって感じです。あとは、アルバムなりを制作しましょうってなったら、また別で曲を作ったりですね。

――伊丸岡さん、岡崎さんが作曲する場合は、歌詞を先にもらうことが多いと伺いましたが、それはいつぐらいから?

伊丸岡 初期の頃は詞をもらって書いてたんですけど、途中から、曲先も場合も出て来て。今は両方のやり方でやってます。

岡﨑 僕の方は曲を書いてから歌詞をつけてもらうっていうのが多かったけど、最近は、千野ちゃんの歌詞をもらって、そこから曲をつけるっていうのが多くなってきた。

――詞先が増えて来ている?

伊丸岡 詞先が増えてます。詞があったほうが、景色が浮かびやすいんですよ。メロからだと、悪く言えば、大雑把になるというか。言葉があった方が、具体的にイメージしやすいですね。

――なるほど。楽曲のイメージに対する共有が、歌詞が先に在る方がよりリンクできる。

伊丸岡 そうです。文字合わせは後で出来るので。

岡﨑 曲先だと、フルコーラス作った時、歌詞がないわけですよね。音楽的にはいいのかもしれないけど、歌詞が無い状態だと、どこで盛り上がるかとか、構成を詰めることが出来なんですよ。それが詞があると“あ、この歌詞めっちゃいいから、ここで盛り上げようっ”て見えて来る。

伊丸岡 そうだね、そうそう。

岡﨑 うちのバンドに一番マッチしているのが、詞先なのかな、と思います。

伊丸岡 本当にそうですね。千野ちゃんが書く歌詞は他には無い歌詞感を持っているので、それがうちのバンドの面白さ、魅力につながっているんだと思うし。

宇佐美友啓(以下、宇佐美) 確かに歌詞があったほうが、イメージしやすい。ベースを考えるときも、そういう場合が多いです。例えば今回の『花歌標本』だと、「35℃」のベースとかがそう。難しいことは別にやってないんですけど、ロングトーンをずっと続けるのが、歌詞の世界に合ってると思った。歌詞を読んで、こう……すごく広い感じがしたので、ロングトーンが合うんじゃないかと思ったんです。

 

アルバム用の「虹」は感覚的に作った曲

――今回のアルバムは、リズムアプローチはある程度トレンドを取り入れているのかなと思いました。

高橋誠(以下、高橋)ドラムに関しては、デモの段階で、ある程度打ちこんであるのを広げていくことが多いんですけど、自分では思いつかない(リズムパターンとか)も多くて。そこが面白いんですけど。今回のアルバムで言うと「そうだ僕らは」「オレンジ」「そんな君のために」とかは、元々あったパターンがそう。調整する程度に少しいじったって感じです。

――「そんな君のために」って、じつはリズムパターンがモータウンですよね? どうでしょう? 作曲の伊丸岡さん。

伊丸岡 そうですね。リズム的にはモータウン。作曲の打ち込みの時に、音的にはモータウン系の打ち込みを意識しました。

――個人的には「虹」がすごく印象に残りました。歌詞のアプローチ方法も含めて。

千野 「虹」は、このアルバムのために作った曲です。曲作ろうって思って、自然に作っていった感じ。歌詞も一緒に出て来ましたね。すごく感覚的に作った曲ですね。

伊丸岡 一番、シンガーソングライター系の曲だと思う。

千野 なのかな?(笑)鼻歌みたいな感じで作ったんですよ。アルバムタイトルにかけているわけじゃないですけど(笑)。

――途中、一音だけ、予想外のメロディーラインをふむとか、ブリッジになってるあたりもいい。

千野 この曲に関しては、アレンジャーの伊藤さんがついてくれたのも大きかったですね。今おっしゃった一音のブリッジとかは、アレンジャーさんのアイデアでもあるんです。

――間奏のギターソロも、シューゲイザーのフレィヴァ―があるのに、メタル的なメロディアスさもある。

伊丸岡 そうですね。その感じは、昔からやってる感じで。そういうGOOD ON THE REELのティストを伊藤さんが拾ってくれて、GOOD ON THE REELだったらこういう感じがいいんじゃない、って方向に持って行ってくれましたね。

――最後の<ラララ~>の繰り返しは、全部メンバーの声?

千野 そうです。“がや”みたいな(笑)。マイク1本立てて、いろんな距離感でいろんな声色で録りました。本当は女性の声が欲しかったんですけど……なかなか見つからなかった。

――歌詞も、女性目線の歌ですしね。

千野 そうなんですよ。だから女性の声が欲しかったんですけど、周りにいなかったんですよね。

――じゃあ、女性の部分は誰が担ってるの?

千野 主に僕と広平です(笑)。この最後の<ラララ~>の部分、あまりに<ラ>をたくさん言ってるんで、途中からちゃんと<ラ>って言えなくなってくるんですよ。舌が回らなくなってくるっていうか(笑)

一同 そうそう(笑)。

千野 さっきおっしゃってた、メロのフックの一音あるじゃないですか。あそこも「ラ」で歌う時は数えてないと、どこであそこのメロにいくかわからなくなるから。こう(…と、指を折る仕草)数えながら歌いましたね。

伊丸岡 (カウントをとる仕草をしながら)はい、いまだ! みたいな(笑)。

千野 そうそう、そうやって歌いましたね。でも、このアルバムのいい思い出になったかな(笑)。

――「虹」は千野さんの作詞・作曲だけど、元々、最後の<ラララ>は作った時からありました?

千野 ありました。終わりのフェードアウトまでイメージしてましたね。ただ<ラララ~>の部分は、元々はこんな長い感じじゃなかったんですけど。

――聴いている感触だと、想像の2倍ある感じでした。

千野 俺もそういう感じあります(笑)。でもそれで余韻が強くなったと思います。

取材・文:伊藤亜希