6/9(水)ニューアルバム「花歌標本」のリリースに向けてオフィシャルインタビューを公開。

前編~後編をお届けいたします。
 

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思い出というものは、誰の中にもある。

忘れられないような強烈な思い出もあるだろう。しかし大概の思い出は、日々の新しい経験やルーティンに紛れ、記憶という名の引き出しの奥にしまわれていく。

その引き出しを開けてくれるのが、GOOD ON THE REELの音楽だ。しかも無暗に片っ端から開け放つような、無粋なことはせず、ソッとちょっとだけ開けてくれる。あのときの些細な思い出は、やっぱり懐かしく、そして当時とは異なる感情の起伏をあなたにもたらしてくれるはずだ。

 思い出が新しい思い出を作る――GOOD ON THE REELは、誰もが気が付かなかったけど、当たり前のことを当たり前のこととして教えてくれる、そんなバンドだ。

 

詞先、曲先の両刀使いバンド

――4年ぶりのフルアルバム『花歌標本』について伺います。制作期間はいつから?

 

伊丸岡亮太(以下、伊丸岡)全部合わせたら……述べ1年以上?

 

岡﨑広平(以下、岡﨑)それくらいになるのかな。

 

千野隆尋(以下、千野)アルバムに向けて、本格的に作り出してからは、2~3ケ月くらい?

 

伊丸岡 そうだね。曲を練ったりとか考えると1年以上。作詞時間は2か月くらい。

 

千野 元々ストックがあったから、10年以上前の曲もある。

 

伊丸岡 ストックが結構たまっていくんですよね。今回使わず、次に使おうってパターンが多い。

 

――つまりいつもある程度、定期的に曲作りをしてるってことでしょうか?

 

千野 そうですね。わりといつも“曲、作らなきゃなぁ”って思いながら生活してますね。

 

――そういう生活の中で曲を作ろうと思うきっかけはある?

 

千野 特にきっかけとかは、あまり意識したことがなくて。気分がのればって感じです。あとは、アルバムなりを制作しましょうってなったら、また別で曲を作ったりですね。

 

――伊丸岡さん、岡﨑さんが作曲する場合は、歌詞を先にもらうことが多いと伺いましたが、それはいつぐらいから?

 

伊丸岡 初期の頃は詞をもらって書いてたんですけど、途中から、曲先も場合も出て来て。今は両方のやり方でやってます。

 

岡﨑 僕の方は曲を書いてから歌詞をつけてもらうっていうのが多かったけど、最近は、千野ちゃんの歌詞をもらって、そこから曲をつけるっていうのが多くなってきた。

 

――詞先が増えて来ている?

 

伊丸岡 詞先が増えてます。詞があったほうが、景色が浮かびやすいんですよ。メロからだと、悪く言えば、大雑把になるというか。言葉があった方が、具体的にイメージしやすいですね。

 

――なるほど。楽曲のイメージに対する共有が、歌詞が先に在る方がよりリンクできる。

 

伊丸岡 そうです。文字合わせは後で出来るので。

 

岡﨑 曲先だと、フルコーラス作った時、歌詞がないわけですよね。音楽的にはいいのかもしれないけど、歌詞が無い状態だと、どこで盛り上がるかとか、構成を詰めることが出来なんですよ。それが詞があると“あ、この歌詞めっちゃいいから、ここで盛り上げようっ”て見えて来る。

 

伊丸岡 そうだね、そうそう。

 

岡﨑 うちのバンドに一番マッチしているのが、詞先なのかな、と思います。

 

伊丸岡 本当にそうですね。千野ちゃんが書く歌詞は他には無い歌詞感を持っているので、それがうちのバンドの面白さ、魅力につながっているんだと思うし。

 

宇佐美友啓(以下、宇佐美) 確かに歌詞があったほうが、イメージしやすい。ベースを考えるときも、そういう場合が多いです。例えば今回の『花歌標本』だと、「35℃」のベースとかがそう。難しいことは別にやってないんですけど、ロングトーンをずっと続けるのが、歌詞の世界に合ってると思った。歌詞を読んで、こう……すごく広い感じがしたので、ロングトーンが合うんじゃないかと思ったんです。

 

 

アルバム用の「虹」は感覚的に作った曲

――今回のアルバムは、リズムアプローチはある程度トレンドを取り入れているのかなと思いました。

 

高橋誠(以下、高橋)ドラムに関しては、デモの段階で、ある程度打ちこんであるのを広げていくことが多いんですけど、自分では思いつかない(リズムパターンとか)も多くて。そこが面白いんですけど。今回のアルバムで言うと「そうだ僕らは」「オレンジ」「そんな君のために」とかは、元々あったパターンがそう。調整する程度に少しいじったって感じです。

 

――「そんな君のために」って、じつはリズムパターンがモータウンですよね? どうでしょう? 作曲の伊丸岡さん。

 

伊丸岡 そうですね。リズム的にはモータウン。作曲の打ち込みの時に、音的にはモータウン系の打ち込みを意識しました。

 

――個人的には「虹」がすごく印象に残りました。歌詞のアプローチ方法も含めて。

 

千野 「虹」は、このアルバムのために作った曲です。曲作ろうって思って、自然に作っていった感じ。歌詞も一緒に出て来ましたね。すごく感覚的に作った曲ですね。

 

伊丸岡 一番、シンガーソングライター系の曲だと思う。

 

千野 なのかな?(笑)鼻歌みたいな感じで作ったんですよ。アルバムタイトルにかけているわけじゃないですけど(笑)。

 

――途中、一音だけ、予想外のメロディーラインをふむとか、ブリッジになってるあたりもいい。

 

千野 この曲に関しては、アレンジャーの伊藤さんがついてくれたのも大きかったですね。今おっしゃった一音のブリッジとかは、アレンジャーさんのアイデアでもあるんです。

 

――間奏のギターソロも、シューゲイザーのフレィヴァ―があるのに、メタル的なメロディアスさもある。

 

伊丸岡 そうですね。その感じは、昔からやってる感じで。そういうGOOD ON THE REELのティストを伊藤さんが拾ってくれて、GOOD ON THE REELだったらこういう感じがいいんじゃない、って方向に持って行ってくれましたね。

 

――最後の<ラララ~>の繰り返しは、全部メンバーの声?

 

千野 そうです。“がや”みたいな(笑)。マイク1本立てて、いろんな距離感でいろんな声色で録りました。本当は女性の声が欲しかったんですけど……なかなか見つからなかった。

 

――歌詞も、女性目線の歌ですしね。

 

千野 そうなんですよ。だから女性の声が欲しかったんですけど、周りにいなかったんですよね。

 

――じゃあ、女性の部分は誰が担ってるの?

 

千野 主に僕と広平です(笑)。この最後の<ラララ~>の部分、あまりに<ラ>をたくさん言ってるんで、途中からちゃんと<ラ>って言えなくなってくるんですよ。舌が回らなくなってくるっていうか(笑)

 

一同 そうそう(笑)。

 

千野 さっきおっしゃってた、メロのフックの一音あるじゃないですか。あそこも「ラ」で歌う時は数えてないと、どこであそこのメロにいくかわからなくなるから。こう(…と、指を折る仕草)数えながら歌いましたね。

 

伊丸岡 (カウントをとる仕草をしながら)はい、いまだ! みたいな(笑)。

 

千野 そうそう、そうやって歌いましたね。でも、このアルバムのいい思い出になったかな(笑)。

 

――「虹」は千野さんの作詞・作曲だけど、元々、最後の<ラララ>は作った時からありました?

 

千野 ありました。終わりのフェードアウトまでイメージしてましたね。ただ<ラララ~>の部分は、元々はこんな長い感じじゃなかったんですけど。

 

――聴いている感触だと、想像の2倍ある感じでした。

 

千野 俺もそういう感じあります(笑)。でもそれで余韻が強くなったと思います。

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「オレンジ」は試行錯誤した1曲

――「オレンジ」は岡﨑さんの作曲。

 

岡﨑 これは曲先でした。曲に合わせて、千野ちゃんが歌詞をつけてくれた。

 

――千野さんに渡す段階では、どれくらい出来上がってたんですか?

 

岡﨑 一応、雰囲気とかフルに作った状態でしたね。これもアレンジャーの伊藤さんが絡んでくれて。サビ頭を変えてくれたりしてくれて。バンドでいろいろ試行錯誤しながら、今の形になりましたね。

 

――もしかして最初はもっとフォーキーでした?

 

岡﨑 そうです、そうです。アコギでジャカジャカやってもいいなと思って作ってましたね。それがラストのサビに出て来る。歌詞で言うと<なだらかな坂道で>あたりに出てきてますね。

 

――でこの曲、始まりは、AORだと思ったんですよねぇ。

 

岡﨑 あぁなるほど。僕、元々、そういうコード進行好きなんですよね。だからそう感じてもらえるのかもしれない。でもAORを意識して出した感じはなくて、自然に出て来たんですよね。

 

――これ作ったのはいつくらい?

 

高橋 2019年だよね。仮タイトルがそうだもんね。

 

岡﨑 あぁ。僕、仮タイトル、日付でつけてるんですよ。

 

――そうなの?(笑)2019年だと、もうエド・シーランとかが出て来た後ですよね。で、伺いたいのは、岡﨑さんが言うフォーキーっていうと、どういう音楽? 例えば私だと、ボブ・ディランとかに直結して、アコギでジャカジャカってなっちゃうんだけど(笑)、でも、2010年以降のフォーキーって、いろいろな要素が入って来て、そうとも言えないじゃないですか。

 

岡﨑 確かに。今、おっしゃった通り、作った時は、エド・シーランみたいに、アコギでフレーズを弾きたいなとは思ってたんですよね。でもどうしてもあの雰囲気は無理だなっていうか……スキルが追い付かなくて、却下になった。アコギで表現しきるのは、なかなか出来ないなってなって、じゃあ、あの雰囲気をバンドサウンドにしていこうと思いましたね。

 

――あぁ、しっかりバンドサウンドへの意識がアップデートされてるんですね。いいですね。では「標本」という曲について。これは伊丸岡さんの作曲ですね。

 

 

「標本」は歌詞をほぼ書き換えた

 

伊丸岡 元々僕、ピアノ習っていて。この曲は、ピアノで思いついたままフレーズを鳴らして、そっから作り始めたんです。これは歌詞はどうだっけ? 千野ちゃん?

 

千野 たぶん、1番だけ歌詞を書いて渡して、それに亮太が曲をつけてきてくれた。で、その後、ほぼ全部書き換えてます。

 

伊丸岡 そうですね。1番だけあって、それも元々はまったく違った歌詞でした。で、元々あった歌詞に、ピアノとドラムのバンドサウンドじゃない打ち込みくらいで、曲を作っていった。2番の歌詞がなかったから、1番の歌詞を2番に持って来て作ってんですけど、2番はバンドサウンドで構築していきましたね。

 

――「標本」は、1番はリズムと歌メロだけ。その後、2番はバンドサウンドに展開する。このコントラストが魅力ですよね。

 

伊丸岡 最初は全部バンドサウンドにしたいなと思ってたんですよね。でも1番を作っていく過程で、テクノに切り替わっていった。

 

――アンビエントに近いですよね。テクノ的なところは、上物のビートですかね。ビート細かいですもんね、他の曲より。

 

伊丸岡 後半はバンドっぽくなってますけど、伊藤さんに結構テクノよりのサウンドに変更してもらったんですよね。リズムとかもドラムのフレーズも、それでガラッと変わった。

 

高橋 この曲、初めてのシンバルを使ってるんですよ。高い音でコーンって鳴る、ベルってシンバルを導入したんです。音色の幅が広いシンバルなので、そこは結構、意識して叩きましたね。聴く人によっては、打ち込みに聴こえるかもしれないですね。この曲だけに限らず、今回のアルバムは全曲、ドラムテック(=ドラムのチューニングはもちろん、使用する楽器も含めて、楽曲に合ったサウンドメイクのご提案したり、ドラムの環境を整えてくれるプロ)の方がついてくれたんで、音色は1曲1曲、相談しながら決めていきましたね。

 

――宇佐美さん、「標本」のベースについてはどうです? 表現したかったことは?

 

宇佐美 やっぱりまずは1番と2番の違いを出したかったですね。1番は打ち込みで弾いてないからこそ、2番から人が弾いてるっていう、人力感を出せればと思って。実際は、2番も打ち込みっぽい音像ではあるんですけど、だけど、人が弾いてる感じをしっかり出したいと思いながら弾きましたね。

 

――なるほど。すごく感覚的な感想になるんですけど、2番から体温が上がった感じがしました。

 

宇佐美 そうなんです。だからそこが死なないように。

 

伊丸岡 2番は人間味が出て来てる。

 

――少し話を戻して歌詞について。曲が上がって来て、ほぼ書き直したとおっしゃってましたが、それはどうして?

 

千野 歌詞って書いたときに満足しても、読み返して“何これ”っていうことが多いんです。

 

――それは今でも?

 

千野 今でも。いつもあります。

 

――それは、夜に書いた日記を次の日の朝に読み返して“何これ?”みたいな感覚と似てますか?

 

千野 似てると思います。僕、常に言葉が思い浮かんだらメモったりしてるんですけど。「標本」はこのアルバムのために曲にしようってなって、曲が上がって来た時に、結構、壮大なイメージになったなと思ったんです。1番が全部静か(なアレンジ)って…って思って。“これは、大したことを歌わなきゃいけないな、大きなテーマにしなきゃ……”と思って、すごく悩みましたね。2番から体温が上がる感じがするってことも、すごくわかるし。だから歌詞を変えたんです。より広い歌詞にしました。

 

――テーマを背負った曲になりましたね。

千野 そうですね。レコーディングの直前まで粘って歌詞を変えてました。

 

 

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様変わりした日常が歌詞にもたらしたもの

――コロナ禍で変わった日常が、歌詞にも影響をもたらしたと思う?

 

千野 影響……うーん……誰しもが影響を受けていると思うんですね、俺は。だから、歌詞を書いたときに俺が意識してなくても、出た言葉に少なからず影響はあるな、と。「標本」って<世界中>とか<遠く光る星>とか、大きくて広いことを言っているんだけど、じつは自分とあなたっていう……。テーマは広いんだけど、あなたに向けて歌ってますよっていう曲なんです。俺からしたら出口が狭いというか、行き先が明確というか。そうなったのは、この1年の影響も、少なからずあるのかなって。人と人が深くかかわることが出来ない今だから、ただ広いだけじゃなくて、出口があなたひとりってところに、出てるのかなって思います。

 

――相手の未来のことを歌っている曲ですもんね。

 

千野 そうなんです。でも自分のことでもある。

 

 

――アルバムタイトル『花歌標本』はどこから?

 

千野 さっきも話に出た「虹」って曲は、それこそ鼻歌みたいに作ったんですね。言葉にするとイメージがちょっと適当に聞こえると思うけど、メロディーって、要するに鼻歌みたいなものなんですよね。

 

岡﨑 勝手に出て来るものだからね。

 

千野 そうそう。例えば、広平が作る曲は、デモの段階で、フレーズが結構しっかりしてるんですよ。それで“あぁ、こういうフレーズが弾きたいんだな、このフレーズから作っていってるんだろうな”っていうのがわかるみたいな。で、そこに鼻歌みたいにのってるのがメロディー。僕は、その雰囲気を大切に歌ってるんです。だから、歌うたびにちょっとずつ変わったりするんですよ。雰囲気がまず大事で、メロディーが固まっているわけではないから。

 

――どういうこと?

 

岡﨑 ここはこういう音程で、こういう言葉が欲しい、みたいなのが、細部まで決まってない。それよりも、雰囲気が合う方がいいと思ってるんです。

 

――つまり、楽曲の持つ雰囲気を重視しているから、歌う度にメロディーが変わるということ?

 

千野 そうなんです。譜割りとかメロディーが変わるんですよ。

 

――それ、マジですか?

 

千野 そうなんです。

 

――今、すごくびっくりしてます(一同爆笑)。

 

岡﨑 ノリで出て来たものがいい、そこが大事で。

 

――レコーディング中でも変わったりするの?

 

千野 レコーディング中も。広平には確認しますね。“この曲、ここからどっちにいくの?”って。

 

岡﨑 そう。それで俺が“じゃあ、あっち”って言って。千野ちゃんが“あっちってあっちの方?”みたいな。そういう会話は、ちょくちょくありますね。

 

――へぇええええ! 面白いなぁ。もっと具体的に知りたい。教えていただいてもいいですか?

 

千野 はい、もちろん。例えば、二文字の言葉がありますよね。

 

――はい、想像出来ます。

 

千野 あとは一音に対しての言葉の数とか、もっというとそこはくってた方がいいのかくわない方ほうがいいのかとか。(註:くう=「くい」。拍の裏にアタックが入ること。通常「1、2、3、4」と拍の”表”でカウントをとる。対して、拍の裏とは「1と2と3と4と」とカウントをとった「と」の部分を裏という。この裏にアクセントをつけることを“くってる”と言う)広平の曲は、最初の譜割りに合わせて詞を書いても、次のデモで“あれ、文字が二文字増えてる?”とか、そういうのが結構あるんです。だからその都度、確認する。そういう感じで、歌を作っていくんですね。

 

――なるほど。ありがとうございます。

 

千野 で、アルバムタイトルなんですけど……。

 

 

鼻歌を肉付けした作品、それが楽曲

 

――話を戻していただき、ありがとうございます。続けてお願いします。

 

千野 はい(笑)。メロディーって、基本的には鼻歌から作られるものだなって思いがあって。その鼻歌を雰囲気だったり、言葉だったりをつけていろいろ肉付けしていって、1曲の楽曲になる。ひとつの作品を作り上げていくっていう感じだと思うんですね。その作品の数々が標本だなと思って。例えば、蝶々の標本って、色がおちないまま綺麗に飾られているじゃないですか。楽曲もそう定義づけられるなと。鼻歌をみんなでより綺麗な形にしたものというか。ひとつの作品にして、残せるものだなと思って、『花歌標本』ってタイトルをつけました。

 

――なるほど。色が落ちないまま、色褪せないままってところも大きなポイントですね。

 

千野 そうですね。「標本」の歌詞に<死んでも尚生きる歌を>ってフレーズがあるんですけど、もし僕らが亡くなった後でも、誰かが未来で口ずさんでくれたら……っていう。

 

伊丸岡 それだけでいいんだよね。

 

千野 うん、そうなったら、本当に“標本”みたいに綺麗なままで残ってるって言えるな、と。そういうイメージもありました。

 

 

――<死んでも尚生きる歌を>って、歌詞にしたこと、すごいと思いました。だって、このフレーズ、ずっと歌わないきゃいけないじゃん。それって、すごい勇気がいることだなと思いました。覚悟が無きゃ出来ないというか。

 

千野 そうなんですよ(笑)。

 

伊丸岡 最初、千野ちゃん、このフレーズ変えようとしてたんですよ。でも、僕がそこだけは残してくれって。このフレーズが好きだからって。

 

千野 歌詞って、世の中に出るから、責任が伴うじゃないですか。言葉ってすごく武器になる。いい意味でも武器になるけど、逆に傷つけたり、人を攻め立てたりできちゃうものなんですよね。だから歌詞で、死ぬとか、生きるって言葉を使うのは、すごく勇気がいるんです。俺の中で、死ぬとか生きるとか歌詞に書くと、メンバーは嫌なんじゃないかなっていうのがあったんですね。何て言うんだろう……タブーみたいなイメージがあったんですけど、でもあえて書きたいと思ったんです。生と死って、誰にでもあることで、そういう意味では身近なことだと思うんです。当たり前にみんなが持っているものに対する重み、みたいな。そこが面白いなと思って、あえて書きたくなるときがあるんですよね。

 

――そういう……あえて書きたくなるときっていうのは、定期的に訪れるんですか?

 

千野 曲によってですね。歌詞を書いていて、この流れだったら書きたいって思うときもあれば、別の描き方をした方が印象に残りそうだなと思って、違う方法にすることもある。曲により描きたいことが出て来るから。

 

――なるほど。あの……ということはですよ、永遠に歌詞が書けるとも言えるんじゃないですか。すみません、意地悪で!

 

千野 はははは(笑)。

 

伊丸岡 もはやそう言えますよね(笑)。

 

千野 そうかもしれない(笑)。テーマとか、具体的なメッセージとかを表現したい、歌詞にしたい、伝えたいと思ったことは無くて。そこは昔からずっとそうで、今も変わらないんです。でも、俺は言葉が好きで……何ていうのかな……。

 

――言葉で何かを描いてる感覚?

 

千野 それもあると思います。

 

――でも、言葉だけだと、自分が描く表現のパワーが足りないと感じるときもある?

 

千野 もちろん。曲になるから強いんです。

 

 

1番大事なのは思い出の中にある共感

 

――わかりました。千野さんの書く歌詞には、オレオレ的な主張とか、承認欲求みたいなものがないですよね。

 

千野 無いですね。

 

――じゃあ、その言葉に対する表現欲求の源は何なんですかね?

 

千野 例えば、帰り道にいつもの道を歩いていて、いつも目につくゼラニウムの赤だったり、その景色を言葉にしたらどうなるだろう、みたいな。それが自分的に綺麗な文章になったら、自分が嬉しいってところかなぁ。

 

――言葉は言葉、鼻歌は鼻歌って区別はしてます?

 

千野 考えたことがないですね。それぞれ別だとは思うけど、言葉と鼻歌、つまりメロディーが同時に出て来ることもあるから。でも最近というか、ずっとやってきて少しずつ変わって来たのかもしれないけど、例えば曲先の楽曲に対して、その雰囲気でどんなものを描いて、どんな物語を描いて、それが聴いた人にどんな感じで伝わるかとか、何を残せるかとかを考えて書くことが多くなりましたね。その曲をGOOD ON THE REELとして、どういう作品にするかを考えるようになったと思います。あと、自分の中では1番大事なのは、共感することだなと思っていて……。

 

――共感とは、聴き手と楽曲がシンクロするってこと?

 

 

千野 そうです。例えば「虹」だと<ハイブランドのコスメ>とか、「35℃」だと<久しぶりに飲むマッ缶>とか、描写を細かくすることによって、その人の思い出には無いものになっちゃう……と、思うじゃないですか。でも俺は、そう思ってなくて。その思い出を作るというか……実際には、その人(=曲を聴いた人)の思い出の中には無いのに、懐かしい気持ちにさせる手法だなと思っているんです。このアルバムのマスタリングのとき、エンジニアさんに”「35℃」を聴くと、自分はこんな経験ないのに、経験をしたように感じる。すごく懐かしい感じがしてギュッてなる“って言われて。”あぁ、狙い通りだな、よし“と。

 

一同 はははははは(笑)。

 

千野 “俺、間違ってなかった”と思ったんです(笑)。自分が経験してないけどあるよね、自分の周りにはいないけどこういう人いるよね、みたいな感覚ってあるじゃないですか。それで何となく切なくなったり、何かを思い出したり。それが共感だと俺は思っていて。聴く人に合う言葉ばかり書こうとすると、大きな歌詞になっちゃうんですよね。みんなが思ってそうなことばかり書くと、逆に伝わらない歌詞になると思う。感覚的に近いものが1個あったりとか、誰もが感じたことがあるような雰囲気を言葉を通して感じさせられれば、もう共感してるって思うから。聴いてる人には、何か残したいし、何か感じて欲しい。だからそこを1番、大切にしています。

 

――わかりました。昨年から15周年イヤーが続いてますが、15年間バンドを続けてこられた理由について。分析していただけますか?

 

千野 僕は、辞める方、終わりにする方が勇気がいると思っていて。そこも自分の中で続けて来れたひとつの要因だと思う。あとは、こういうメンバーが集まったってところですかね。こう……自我が強すぎて、手が付けられないよー、みたいな人がいないというか。ぶつかってぶつかって、分かり合って、みたいなメンバーじゃないから。物ごとを俯瞰で観ることが出来る人間が揃っているから。

 

岡﨑 お互い、踏み込み過ぎない。それが大きいと思います。もしそういう人がいたら、もう終わってたかもしれない。でも最近は“15年経って、このままでいいはずないよね”って話もしたりしてるんです。メンバー1人1人考えて、言うことは言っていこうかってなってますね。

 

――具体的にはどういう話を?

 

岡﨑 ……ちょっと赤裸々になりそうな……。

 

――わかりました。じゃあ、これ以上つっこみませんね(笑)。

 

一同 ははははは(笑)。

 

――でも今の回答は、メンバー同士で、具体的な話は出て来てるって捉えていいですよね?

 

伊丸岡 そうですね。そもそも具体的に考えよう、共有していこうってところで、話しているんで。自ずとGOOD ON THE REELのこれからの話になりますから。

 

――15周年イヤーもまだ続きますし。4年ぶりのフルアルバム『花歌標本』もリリースされますしね。

 

千野 そうですね。これまで何となく……で共有して来たところもあるから、そこをはっきり共有出来るのはすごくいいことだ、と。そこがこれからいい形で出て来たらいいなと思いますね。

 

 

取材・文:伊藤亜希