6月に約4年ぶりのオリジナルフルアルバム『花歌標本』をリリースしたGOOD ON THE REELが、本作発売を記念した全国ツアー『HAVE A “GOOD” NIGHT vol.91-99 ~ハナウタツアー~』を開催。そのファイナル公演が、7月14日、新宿BLAZEで行われた。

 

 会場が薄闇に沈む。ロマンチックなピアノのフレーズが印象的なSEの中、メンバーが順番にステージに姿を現す。最後に登場した千野は、ツアーグッズのタオルを観客に向け掲げている。それぞれがスタンバイする。千野の「こんばんは、GOOD ON THE REELです」という言葉。ドラムの高橋のカウントから、1曲目へ。ライヴはアップチューン「交換日記」で幕を上げた。カッティングとフレーズ、ダブルギターが奔放に、華麗に曲を彩る「ノーゲーム」など、序盤戦はアップチューン中心に展開。この日、最初の長いMC。千野がマイクをとり「改めましてGOOD ON THE REELです。ツアーを開催出来たってことがすごく嬉しくて。ファイナルまであっという間だった」と言った後、こう続けた。前回のファンクラブツアーが最終日だけ緊急事態宣言にあたり、延期・中止になったこと、緊急事態宣言下で行われることになったこの日のライヴのために、スタッフや会場となる新宿BLAZEのスタッフと協議をし、開催にいたったこと、さらにこの日来場してくれた観客に感謝を述べ、最後に

「限られた時間だけど存分にこの時間を楽しみましょう」

と締めくくった。

 

 

伊丸岡、岡﨑、宇佐美の<♪Oh~Oh~>という力強いコーラスから始まる「rainbeat」、サビでステージから七色のライトが光った「虹」と、まるで梅雨明けを思わせるような曲の並び。この、ストーリー性を大事にしたセットリストに、GOOD ON THE REELの真骨頂を垣間見た。

 中盤のMCでは、千野の「旅の思い出発表しとく?」というひとことから、メンバー全員が本ツアーの思い出話を披露。ギターの岡﨑は仙台~苫小牧までの17時間のフェリー移動に触れ、自分は乗り物に弱い、気持ち悪くなるのが嫌だから、自ら追加料金を払い個室を確保したと会場を笑わせた。ベースの宇佐美も同じくフェリーが印象に残ったと話す。曰く、緊急事態宣言前だったゆえ「行き(=苫小牧に向かう船中)の共有スペースで、メンバーと一緒に、久々に飲んで話したことが楽しかった」と述べた。ギターの伊丸岡は「広島で短い時間だけど、みんなと一緒にご飯に行けた。ウニ食えたのが嬉しかった」と笑顔を見せた。開口一番「圧倒的に鹿です」と言ったのがドラムスの高橋。広島からの移動中、小さな山を越えなければならない道があった。全員で車で移動していたメンバー。ハンドルを握っていたのは高橋だ。「真っ暗で、霧もかかっていて、ハイビーム(=車のヘッドライト)にしても前が見えなくて怖かった。もうすぐそれが終わると思っていたら、目の前に野生の鹿がパッと出て来て、めちゃくちゃびっくり!」と。この話題にライドオンする他のメンバー。「めっちゃテンション上がったよね、あれね」「あんな近くで鹿を見たの、初めてだった」と、思い思いに当時の驚きを口にする。この様子に高橋は「オレ、めちゃくちゃ焦ったんだから」と被せ、メンバーは大爆笑。ここは楽屋か? と思わせるようなやりとりに、マスクをした観客も和んでいた。最後は千野がこうまとめた。「久しぶりのツアーで、各地のファンの方々にまた無事に会うことが出来て、無事にファイナルを迎えることが出来て、本当に良かった。みんな待っててくれてありがとう」

 

 

このMCに続く中盤では、ミディアム、ミディアムバラード、バラード曲を中心に聴かせた。このブロックのハイライトは「35℃」。美しいシューゲイザー、情熱的なバンドエレクトロニカとでも言えそうな、GOOD ON THE REELの持ち味が存分に生かされた1曲だ。感情をクレッシェンドで描いたような楽曲構成、エモーショナルな千野のボーカルと、雄大なコーラスの対比も聴きどころ。ミディアムチューンながら、ケルティックなアレンジを匂わせるたゆたうようなグルーヴがスケール感につながる名曲である。観客は、サウンドに身をゆだね、上半身を揺らしていた。

余談だが、終演後の帰路、偶然、伊丸岡くんに逢った。やり切った表情で、少し頬を蒸気させていた彼に「35℃、めっちゃかっこよかった! シガーロス(=アイスランド出身のバンド)みたいだった。中盤のミディアムが並ぶブロック、バックサウンドは洋楽みたいだった!」とマスク越しで感想を伝えると、彼からはこんな言葉が返ってきた。

「でしょ? ですよね? ありがとうございます」

とても満足気な笑顔だった。

 

ライヴは終盤へ向かう。宇佐美のMC。GOOD ON THE REELは、デビュー前、新宿のライヴハウスをホームグラウンドとして活動してきた。だから帰ってきたって感じがすると述べ「ただいま」とひとこと。拍手で応える観客に「ありがとうございます」と言った後、こう続けた。

「GOOD ON THE REELは、結成15周年を迎えました」大きな拍手で祝福する観客。メンバー全員、真っすぐ客席を見つめている。「皆さんのおかげです、ありがとうございます」と宇佐美。この後、本ツアーのタイトル『HAVE A “GOOD” NIGHT vol.99 ~ハナウタツアー~』に触れ、こう言った。「99の次はいくつでしょう?(ガイダンスに従って開催したライヴだから)しゃべれないみなさんに問うのも酷ですけど、何があるのかワクワク楽しみにしていてください。まだまだ僕たちに期待してください」と締めくくった。

 千野の「後半戦も楽しんでいきましょう」という言葉から「そうだ僕らは」へ。千野と伊丸岡のユニゾンが光る。コーラス、ユニゾンと、他メンバーがしっかり千野によりそい、歌を押し上げることが出来るのもGOOD ON THE REELの強力な武器だ。サビでは観客が手を挙げてステージ上の5人にレスポンスした。バンドアンサンブルの迫力を発揮した「雨天決行」。観客のクラップが、そのまま次の曲を誘う。「シャワー」へ。ここでもタイトルだけでストーリー性を見出すことができる。いくつもの物語を紡いでいくその様は、少し大げさに言ってしまえば、人生に重なるのではないかと思った。「シャワー」のイントロの中、千野がマイクをとった。

「それぞれに悩みとか辛いこととか、いっぱいあると思うんだよ」

 まるで友人に話しかけているような口調。客席をゆっくり見回しながら千野が続ける。

「でもね、今一緒にいるじゃん、もっと簡単に楽しんで欲しい。みんな全部、自分1人1人の世界だから、うまく回してやりましょう。隣の人とぶつからないように、自分の世界、回しちゃってください」

 しゃがんで、最前列の人の目を見ながら歌う千野。<♪回して 回して>に合わせて、観客が大きく右手を回す。その様子に千野は「いい回しっぷりでした、ありがとう」と叫んだ。

 本編最後のMC。千野はニューアルバム『花歌標本』のタイトルを「鼻歌から歌を作ることが多いから、このタイトルにした」と簡単に説明し、こう続けた。

「鼻歌が卵で孵化させるのが曲。成虫になって、成長していくものが曲。これからも曲を作り続けていくので、傍においてほしいです。オレらがいなくなっても、オレらの曲だとわからなくても、でもどこかの誰かがGOOD ON THE REELの曲を鼻歌でもいいから歌ってくれたら、そうやって歌が流れ続けたら、GOOD ON THE REELは救われます。これからもGOOD ON THE REELをよろしくお願いします」

 この言葉を受けて演奏されたのは「標本」。千野のクリアな声が、伸びていく。シャツの胸元をグッと握りしめ、感情を振り絞るように歌う千野。最後は後ろを向く。メンバー全員が高橋の方を向いている。エンディング。最後のブレイクと同時に、千野は、背中を向けたまま、両手を広げて天を仰いだ。

 アンコールも含め全16曲。ガイドラインを遵守して行われたこの日のライヴ。直前に発令された緊急事態宣言を受け、希望者にチケットの払い戻しをしたのも彼らの優しさだと思うが、冒頭での千野のMCにあったように、多くの人の力を借りながら、ファイナル公演を開催したことが、彼らの意地と優しさだろう。アンコール前、満面の笑顔でステージに登場した千野の言葉を最後に記しておこう。

「声がなくても嬉しい。そうだな、言葉じゃねぇんだな、心なんだな」

GOOD ON THE REELは、言葉を大切にして音楽を作り上げてきたバンドだ。その言葉に救われたり、背中を押さられたりした人もたくさんいるだろう。その言葉の数々を司っている千野が、言葉じゃねぇんだな、心なんだな……と言ったことは、間違いなく、この日のライヴの1番のハイライトであり、重要な部分だと思う。

 

GOOD ON THE REELのネクストーーそれは、あなたの心が決める。ひとつの言葉にいろんな意味があるように、GOOD ON THE REELにもいろんな意味があっていいのだ。それぞれの経験で、言葉の重さが違うように、それぞれの中でそれぞれのGOOD ON THE REELがあっていい。そうやって、自分にとってのGOOD ON THE REELを決めていけばいい。それが、千野がいった、楽曲が成長することにつながると思うから。

 

 待っていてくださいと彼らは言った。だから待っていよう。彼らの歌を口ずさみながら。

 

 

取材・文:伊藤亜希

Photo by 福政良治