ボーカルであり、すべての楽曲の歌詞を手掛ける、千野隆尋のソロインタビューを公開!

必見です。最後まで、どうぞご覧ください!

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歌詞を紐解く― 千野隆尋へのソロインタビュー

~本人が分析!?千野文学はこうして生まれた?~

 

 

幼少期・千野、踊ル――歩くよりStevie Wonderが先だった?

 

僕、もの心ついたときから、音楽をやっていくんだろうな、音楽をやっていこうって思っていたんですよ。周りに音楽をやっていた人もいないのに、なんとなく、本当になんとなく、そう思っていたんですよね。両親が録ってくれたホームビデオで残っているんですけど、それこそ、やっと立ったばかり……みたいな僕が、おもちゃのピアノと、おもちゃのマイクを持ってStevie Wonderの『Part-Time Lover』に合わせて踊りながら<♪あーあーあー>って歌っているんですよ(笑)。父親が音楽好きで、自宅にたくさんレコードがあったんです。Stevie Wonderや、The Beatles、映画音楽……例えば『ネバーエンディングストーリー』とかのサントラだったり。いろいろありましたね。それから、出かけるときは、車の中で、さだまさしさんとか吉田拓郎さんとかが流れてました。僕、そのときの記憶がなんとなくあるんです。歌詞がいいなと思った記憶がなんとなくある。だから今でも、フォークソングの情景的な歌詞が、すごく好きなんですよね。

 

 

幼少期・千野のキヲク――絵本で学んだ太陽と月

 

小さな頃、母親が読んでくれた絵本で好きだったのは『みずのこチャプ』。雨が降って川になって、海になって、蒸気になって雲になってっていう、水分の循環のお話でした。それから覚えているのは『天動説の絵本~てんがうごいていたころのはなし』。これは、昔、地球は果てがあると考えられたときに、地球は丸いんだよってことを描いた絵本でした。ただ、小学生の頃は本を好んで読んでいたってタイプでは無くて、読書感想文のためにしようがなく読むってタイプでしたね。運動が好きだったので、昼休みになると真っ先に走って校庭に出で遊ぶような小学生でした。

 

 

千野少年、ヲモフ――主人公の気持ちの正解ってなに?

 

国語の授業はあんまり好きじゃなかったですね。「主人公のこのときの気持ちを書きなさい」って質問があるじゃないですか。それが僕はずっと疑問で。どうしてこの質問に、正解があるのかがわからなかった。「なんで、この正解をあなたに決められなきゃいけないの?」って。「それは読み手が自由に感じていいんじゃないの?」ってずっと思っていました。正解は1個じゃないでしょっていう疑問ですよね。すごく違和感があった。だから、ずっと国語が苦手だった記憶がありますね。

 

千野少年、知ル――宮沢賢治『銀河鉄道の夜』

 

今思えば、文学というものとの出会いがあるとしたら、1番早いのは宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』だったのかな。父親が結構、物知りで多趣味で。自宅にも映画のビデオがいろいろあったんですね。その中にアニメ版の映画『銀河鉄道の夜』のビデオもあった。キャラクター全員が、猫になっている有名なヤツです。この映画が、音楽もすごく良くて。すごく印象に残っているし、それこそ小学生になるかならないかくらいの小さな頃から、すごく好きだったんですよね。で、小学生になって、国語の教科書に宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』が載っていて、授業でもやって。文面だと全然よくわからなかったんですけど、言葉の選び方とか、空間の作り方とか、想像のさせかたとかに興味が湧いてきて、そこから、小学生なりに宮沢賢治の作品をいろいろ読んだんです。でも、どれもあんまりわからなかったですね(笑)。

 

 

続・千野少年、知ル――あぁ、自分は歌うのが好きだった

 

小学校5年生のとき、家にあったエレキギターを弾き始めて。自宅にはアコギもエレキもあったんだけど、弦が押さえやすいから最初からエレキだったんですよね。当時、お遊びでバンドを組んだんです。最初は3人しかいなくて、僕はギター。ボーカルがいなかったから入れようってことになって、仲のいい友達の中に、すごいイケメンがいたから、ボーカルにぴったりだと思って、そいつを連れて、バンドメンバーと合計4人でカラオケに行ったんですね。オーディションじゃないけど(笑)、彼の歌を聴いてみよう、と。でも、カラオケに行ったら普通に、みんな歌うじゃないですか。そしたら、僕が歌ったとき、みんなに驚かれたんですね。「え?千野くん、うまいじゃん、歌えばいいじゃん」って言われて。このとき、初めて「あぁ、自分は歌うのが好きだった」って気が付くわけです。小学校の頃から、家でずっと熱唱していたから。お風呂で熱唱、トイレで熱唱。で「隆尋、うるさい!」って、毎日言われるような子供だったから(笑)。本当、今思えば、めちゃくちゃ歌うのが好きな小学生だったんですよね。で、ボーカル&ギターになったんです。

 

 

千野少年、歌詞ヲ書ク――最初から書いたのは歌詞でした

 

中学生になると、恥ずかしながら、突然、歌詞を書き出すんです。日記でもなく、詩でもなく、文章でもなく、最初から歌詞でした。Aメロ、Bメロ、サビ……って構成を決めて、歌詞っぽくするんです。音楽が好きだったから、たぶん、単純に自分も歌詞を書いてみたかったんだと思うな(笑)。当時……小学生高学年くらいから中学生時代は、僕、ビジュアル系って言われていたバンドが好きだったんですよ。だからテーマうんぬんよりも、それっぽい言葉を並べたって感じでしたね。ちょっとこう……ビジュアル系でも、誰もが知ってるようなバンドより、ちょっとマニアックな方が好きだったので、その世界観を真似て、グロテスクな言葉を書くとか、そういう感じでした。言葉そのものよりも、世界観がカッコいいと思ってたんですよね。自分が捉えたカッコいいと思った世界観を言葉にしてアウトプットしていた感覚。でも、どういう言葉を書いていたかは、まったく覚えてないです(笑)。

 

 

高校生・千野、衝撃ヲ受ケル――音楽的嗜好の転機

 

高校に進学すると、自分の音楽的嗜好に転機が訪れるんです。GOING STEADYに出会って、一気に青春パンクになるんですよね。まだ洋楽はあまり聴かなかった。英語だと何言っているか聴いててわからないのが、ちょっとダメで。そう考えると、たぶん、僕、日本語が好きで、だから言葉を書いてた、歌詞を書いていたっていう部分もあると思うんです。言葉をしっかり聴きたい、そういうタイプのリスナーだった。だからGOING STEADYにはまったんだと思うんですね。中学生の頃に好きだったビジュアル系もそうですけど、自分にとって衝撃とか、感情を揺さぶられるものが好きだったんです。

 

 

高校生・千野、読ミフケル――彼女の影響で読書家に

 

高校2年生の頃に付き合っていた彼女がいて。ひとつ上の先輩だったんですけど、彼女は、いつも読書をしているような人で、その影響もあって、いろんな本を読むようになりましたね。彼女が貸してくれた本で覚えているのが、アレックスシアラーの『スノードーム』。厚めの本だったんですけど、それを読んで……僕、海外の作者の本ってあまり読まないんですけど、当時は読んだら結構面白くて。本を読み始めるきっかけになった本なんですよね。そこから彼女からもいろいろ借りて読んだし、自分でもいろいろ探して本を読むようになったんですよね。タイトルで気になったら買うとか、そういうことをやってるうちに、いろんな作家を知ったんです。谷川俊太郎さんとかも、小学校の教科書とかにも載っていたけど、この時期に改めて読んで、すげぇなこの人って思いましたね。元々詩が好きだったから、好きになったんだろうなとか、そういう発見もありました。そうやって自分でどんどん掘り下げていった時に、現代ものだけじゃなく、少し古い文学にも触れるようになっていったんです。

 

 

高校生・千野、再び衝撃ヲ受ケル――日本の戦後文学との出会い

 

安部公房を知ったときは、衝撃でしたね。『砂の女』とか、読んでいて、すげぇ苦しくなるんです。僕、あの時代の……少し古い時代の文学って、読んでて苦しくなるんです。作家さんって、今の現状をわかりやすくするために、例えて表現するじゃないですか。例えば「〇〇が〇〇するようだ」みたいな。安部公房のその表現が、ものすごく独特だと思って。時代も違うから、そう感じたのかもしれないけど、もう何この表現みたいな(笑)。その年代ならではの言葉使いって、現代の人には響かないかもしれない。その時代の名作と呼ばれる作品には、やっぱりその時代ならではの素晴らしい言葉があって。そこがすごく面白いなと思ったんです。寺山修司の戯曲「階段を半分降りたところ」も衝撃でした。言葉と字面じゃなくて段落で、階段みたいなイメージを作ってる。言葉がちょっとずつ多くなっていって、その後少なくなったり。全体でみると階段っぽく見える、そんな遊びをしている。意味だけじゃなく、そういう縛りを設けてあって表現している、アイデアもすごいし、言葉選びもすげぇ面白いなと思いましたね。言葉に対して、より幅広く興味を持つようになっていった中で、歌詞や詩は、やっぱり書いてましたね。

 

 

 

高校生・千野、曲ヲ贈ル――自作曲「卒業」誕生の秘話

 

高校時代は、ストレートな歌詞を書いていたと思います。それこそ、彼女が卒業するときに「卒業」って曲を書いたんですよ。それをカセットデッキで録音してプレゼントしました。この曲の歌詞はそれこそもう……<君と過ごした時間が永遠の宝>みたいな(一同爆笑)。あまり覚えてないけど、それくらいストレートな歌詞でした。あと、高校時代書いていたのは……犬の曲とか(笑)。タイトルが『冒険家ドック』(一同爆笑)。犬が冒険する曲です。田舎なので、野良犬がちょこちょこいたので、そこからイメージを膨らませて書いた曲(笑)。他にも、結構、日常からイメージを膨らませて、いろいろ書いてましたね。歌詞を書くのが楽しかった……というより、いろんな出来事だったり、感情を言葉にするのが楽しかったんです。でもそれは、歌詞を書き始めた頃からそうだな……自分では気が付かなかったけど、ずっと、言葉を書くのが趣味のようなものだったんでしょうね。

 

 

専門学校生・千野、衝撃三昧――こんな曲、聴いたことない!

 

高校卒業して、専門学校に入って。最初はパンクバンドやろうと思ってました。それがどうして歌モノになったかというと、きっかけはRADWIMPSのシングル『25コ目の染色体』を聴いたから。CDショップで『25コ目の染色体』を視聴して衝撃を受けたんです。シンプルで、音数も少なくて、歌モノなのに、早口でラップ調みたいな。歌声もすごく綺麗だったし。「こんな曲、聴いたことない!」と思った。衝撃的過ぎて、その場で即買って、それを当時同じ専門学校で仲良かった亮太に聴かせたんですね。彼もパンクが好きだったから、いろんなCDを聴かせたり、聴かされたりしてて。そしたら亮太もヤバいねって。それで、歌モノをやりたいと思ったんですね。この時、亮太とも一緒にバンドやるって話も出てなかったし、もちろんGOOD ON THE REELもなかったんですけど、歌モノをやろう、歌モノで曲を作っていこうと思ったんです。

 

 

千野隆尋、歌詞ヲ語ル――言葉のリズムルールがある

 

歌詞で韻をふむこともありますけど、そこから出てくる言葉のリズムだったりは、自分で培った僕だけのリズムなんですよね。なんかこう……説明し難いんですけど、例えば「この部分、一文字多いな」と思いながら、「あぁでも自分しかそう思ってないだろうな」なんて思うことはあります(笑)。歌詞を書くときは、独自の法則があるんですよね。言葉のリズムルールみたいなのがあって。メロ先だとメロのリズムと言葉のリズムが入り乱れることが結構ある。だから、歌詞(のリズム)が不思議だと言われることもあるんでしょうね。なるべくメロに合わせていますが。

 

 

続・千野隆尋、歌詞ヲ語ル――情景を言葉にするのが好き

 

詞先のときは、ひとつの言葉からイメージを膨らまして書いていくことが多いです。言葉は常に、携帯にメモっていて。例えば「タイトル的な」ってついているメモには、それこそタイトルになりそうだなって思った言葉をメモしてる。そういうメモがいくつもあって、なんとなく読み返したときに「面白いアイデアあるじゃん」とか思って、その言葉から膨らまして書いていく。移動中でも寝る前でも、思い付いたら言葉をメモするのが癖になってるんですよね。自分が観た情景を言葉にするのが好きなんです。

 

 

千野隆尋、憂ウ――世の中にはまだまだ言葉が足りない!

 

こういうことを書きたいのに、そこにぴったりはまる言葉が見つからない。自分の語彙力のせいもあると思うんだけど、まだまだ言葉が足りないと思うんです。世の中に在る言葉が足りないな、と。もっと言葉があったらいいのにって、歌詞を書きながら、結構思うことも多いですね。ある曲を聴いて、寂しいと思う人もいるだろうし、温かいと思う人もいる。それはどちらでも正解で、僕もどうとって

もらってもいいと思ってる。聴き手にお任せしますって感じなんですよ。ただ、自分自身もしっかり思いをもって歌詞は書いているから。全部、思いを込めて書いているんです。

 

 

千野隆尋、造語を語ル――「存在証明書」と「第三質問期」について

 

「存在証明書」と「第三質問期」は造語ですね。「第三質問期」ってタイトルをつけるとき、いろいろ調べたんですけど、人間の成長過程においては、現在、第二質問期までしか定義づけされてないんですよね。「あれ何?どうして?」って子供の頃に質問する時期があるじゃないですか。それの大人版が「第三質問期」。「存在証明書」は、例えば「存在」とか「証明」って言葉は、他のバンドも使いそうだと思うんですね。僕の中でのイメージがそう。だから、あまり使われない言葉にしたいと思ったんです。自分は誰にも見られてないし、孤独だし……って、そうやって悲観的になってる人たち、1人1人もちゃんと存在はしていて、誰にも見られてないなんてことはないと思うんです。生まれたときに、それはもう証明されてるよ、と。あなたが生まれたときに「存在証明書」が発行されてます、と。そこからあなたが何になりたいか、どうしたいかはあなたが決めること。もうあなたは存在してますってことを伝えたくて「存在証明書」って言葉にしたんです。タイトルは、そのときどきで、自分のブームにも影響されていて。今言ったように、他に使われてなさそうな言葉がいいって思うときもあれば、「2月のセプテンバー」みたいに「どういうこと?」みたいな、ちょっとひっかかるように工夫したい時期もある。でも、そのとき、自分の中で輝いている言葉ならいいんです。今言ったことを覆すことになるんですけど、究極、前に使った言葉でも、他の人が使った言葉でも、どう使うか、どこに置くかで輝きが変わってくる。その言葉が輝いているのが1番いいと思うんですよね。

 

 

 

 

千野隆尋、想ヰヲ馳セル――曲があるから出てくる言葉もある

 

歌詞で使いたくない言葉もあります。言葉に関しては(使う言葉の幅を)より広げよう、広げようと思って、ずっと歌詞を書いて来たんですよね。だから、以前だったら絶対に使わないような言葉も、ここ数年は使うようになりましたし、使ってみようと思う言葉も増えましたね。ただ、それでも使いたくないなって言葉も出てきますね。なんか……流行りものの言葉って抵抗がある。どんどん古くなっていく言葉は、使わないようにしてますね。あと、カッコつけた言葉は好きじゃない。例えば、わかりやすいところでいうと、薔薇とか。ただ、使い方によるんですよね。使い方によっては使ってみようと思うことも出てくるかもしれないけど、今の僕には、なかなか難しい。単語だけでみたら、こう……華美な言葉が苦手なのかもしれないですね。GOOD ON THE REELの曲で言うと『YOU&I』ってタイトルも、じつは結構、抵抗があったんです。ただあんだけポップな曲だからいいか、と。曲調によって、抵抗あった言葉がOKになる場合もあるんですよね。『YOU&I』は、この曲調じゃなかったら、めちゃくちゃ恥ずかしい歌詞。でも曲に合わせて書いていくから出て来た言葉なんですよね。曲が新しい言葉を導き出してくれることもあるんですよ。ここ数年、曲先で作る曲も増えてきているから、そこからまたなにか新しい言葉が出て来たらいいなと思ってます。

 

 

 

取材・文:伊藤亜希